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ブームでなくムーブを
 派遣添乗員の就労問題が業界紙で大きく取り上げられています。
ある派遣会社のスタッフがあまりに過酷な就労内容を理由に労基署に駆け込み、労組が加わってその会社の前でデモを行うという騒動を報じる内容です。
 かつての憧れの花形業種だったツアーコンダクターも、誕生の歴史から30数年が経ち、その業務内容は大きく様変わりしました。TCが行う添乗サービスも含め、企業が顧客に提供する商品やサービス内容は事業の発展とともに変化してゆかなければならない宿命にあったからです。事業は社会の変化、つまりお客様のニーズに応じて商品開発がなされ、新しい技術や商品が創造されます。したがって、当然のことながら顧客の変化に応じて商品やサービス内容もどんどん変化する必要がありました。ただ、そこに置き去りにされたのがTCの仕事とその環境でした。
 今回の騒動は「好き」を理由に続けるTCに甘え彼らが置かれた現場から目を背けてきた旅行会社と、自分の仕事を「一級」といわれるまで極めることができなかったTC自身、そしてその狭間にあって力を蓄えられないまま「脆弱経営」をつづけた派遣会社が三竦みになって身動きが取れなくなってきた結果、一番弱いTCのところから力の限界が来て崩れたということです。デモを起こしたTCとしては「使い捨てられるのはごめんだ」と叫んでいます。
 労組を伴ってのデモは1TCの勇気ある行動としてどう評価されるのでしょうか。
 このパフォーマンスは問題全体からすれば氷山の一角にしか過ぎません。記事にも労基署に駆け込む例が後を絶たないという記載がありましたから現実はもっと深刻です。
 高度経済成長を背景に旅行は大衆文化として社会に定着する一方で、マスツーリズム型のオペレーションに対応しなければならない旅行業態は、合理化とともに分業の道を歩みました。その中で、添乗業務やガイド業務のような現場サービスは子会社や外注先にまる投げされ、現場に求められたのは顧客満足度の向上あるのみ、旅行会社本体はつくって売るだけの企業体質と売りっぱなしで現場で何が起こっているかを見ようとしない集団無責任体質の社員と現場で物言えぬ立場のガイドやTCとの間にはどんどん大きな溝ができていきました。
 かつて伴に良いサービス人材を育てようとした同胞も価格破壊と天安門事件、湾岸戦争、バブル経済崩壊、BSE、911テロ、サーズ、鳥インフルエンザ、そしてアフガン・イラク戦争などなど、次から次へとやってくる人災に力尽きていきました。地震や津波などの天災は仕方がないとしても、これだけの国際情勢の不安が続けば平和産業である旅行業が影響を受けないはずはありません。そのたび毎に旅行業界は復活してきましたが、2007年がやってくる来年以降、団塊世代の旅行需要とともに派遣添乗の需要は高まる一方でしょう。
 私たちは今後5年間に何としても力をつけなければなりません。添乗暦15年以上、40歳以上の中堅からベテランに入る人は、添乗暦10年30代の後輩に何を託しますか。添乗暦10年30代の中堅は後輩となるTCやこれから夢をもって入ってくる20代の若手に何を残そうとしていますか。
 フリーランスでもスペシャリティを持つ必要があります。それは、自分を支持してくれるお客様が一級の仕事をするには必要だからです。優しいばかりでなく、時に厳しい注文もしてくれる本当のファンです。添乗2年以上やって一組も支持してくれるお客様ができない人は根本的に仕事への取り組み姿勢を考え直す必要があります。もっとも大切なことは添乗技術や業務知識ではありません。もし、そこに終始していたら20年経っても自分のお客様はできないでしょう。働く自分を守ってくれるのは満足したお客様だけですから。
 企業30年説という言葉があるように、社会性の高い責任ある仕事をしているような大会社でも社会の変化に適応できなければ30年もすればどんどん潰れていきます。
 少子高齢化社会という大きな構造上の問題を無視していたら、デモをいくらやっても解決できることはわずかでしょう。
SPIが創業のときからずっと言い続けてきたことは、「旅が好きより人を世話するのが好きな人集まれ」です。「他人が楽しむ姿に自分の喜びがある」というサービス業の原点を貫ける人がSPIの求める人材、高い目標を共有できる人です。
 私はこの10年「SPIは高齢な人に必要とされる旅行サービスの会社になります」と言って採用説明をしてきました。これらに共鳴できる人とともに、この先の残り少ない貴重な時間の中で汗を流したいと思います。
 また、デモをしたTCの勇気にエールを贈るとするなら、彼の思いは一過性のブームでなくムーブメントを起こすことが必要です。しかし、それは、一人ひとりが現状を認識して自立した一級の社会人を目指さなければお客様からはそっぽを向かれ、かつて多くの先輩がたどった道と同じように志半ばにして力尽きてしまいます。
 30年かかりでできた業界の構造問題は、そう簡単には解決できないと思います。しかし、諦めることを失敗と言い、できるまでやった人だけが成功するのです。私たちは拳を振り上げることなくこの問題を真摯に受け止め静かに解決の道を辿り、必ずこの蛸壺から脱します。

(Always k/s)
 
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